大阪地方裁判所 昭和52年(ワ)3359号 判決 1978年7月20日
原告
小久保明広
被告
品田一
ほか一名
主文
被告らは各自、原告小久保やえ子に対し、金九四万九〇九八円および内金八四万九〇九八円に対する昭和五〇年五月二七日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。原告小久保やえ子のその余の請求および原告小久保明広の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用中、原告小久保やえ子と被告らとの間に生じたものはこれを一〇分し、その九を同原告、その一を被告らの各負担とし、原告小久保明広と被告らとの間に生じたものは同原告の負担とする。
この判決は原告小久保やえ子勝訴の部分に限り仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨(原告両名)
1 被告らは各自、原告小久保明広に対し、金一三二六万八七一八円および内金一二四六万八七一八円に対する昭和五〇年五月二七日から支払済まで年五分の割合による金員を、原告小久保やえ子に対し、金九七四万二三二四円および内金九三四万二三二四円に対する同日から支払済まで年五分の割合による金員を、各支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 仮執行の宣言
二 請求の趣旨に対する答弁(被告両名)
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二請求原因(原告両名)
一 事故の発生
1 日時 昭和五〇年五月二六日午前七時五〇分頃
2 場所 大阪府守口市寺方東通り二―四七先路上(T字型交差点=以下、単に本件交差点という。=内)
3 加害車 小型貨物自動車(大阪四四せ八、三八四号)
右運転者 被告坂井
4 被害車 原動機付自転車(門真市う七七一号)
右運転者 訴外亡小久保三次
5 態様 加害車が被害車に衝突
6 結果 同日午前七時五五分頃死亡
二 責任原因
1 被告品田(運行供用者責任、自賠法三条)
被告品田は、加害車を保有し、自己のために運行の用に供していた。
2 被告坂井(一般不法行為責任、民法七〇九条)
被告坂井は、加害車を運転し本件交差点に右折進入したが、そのような際、対向車線上の直進車の動静を十分注視しその進行を妨げないよう右折進行すべき注意義務があるのに、これを怠り、対向直進車の動静を注視せずに右折を開始した過失により、被害車に衝突した。
三 損害
1 治療費 九万〇九二〇円
亡三次が受傷後死亡するまでの間、野川病院(守口市所在)で受けた治療費。原告やえ子が出捐。
2 葬儀費 五一万七〇四五円
葬儀を施行した際、原告やえ子が出捐。
3 逸失利益 二一二九万四八一八円
(1) 事故直前八九日間(昭和五〇年二月二一日から同年五月二〇日まで)の収入 三二万八〇六〇円
就労可能年数(死亡時二四歳から六七歳まで) 四三年
ホフマン係数 二二・六一一
生活費 収入額の三〇パーセント
算式 328,060×365/89×0.7×22.611≒21,294,818
(2) 原告明広は亡三次の子、原告やえ子はその妻であり、いずれも亡三次の相続人として、法定相続分に従い、原告明広が三分の二、原告やえ子が三分の一宛、右逸失利益の賠償請求権を各相続した。(その金額は後述五のとおり。)
4 慰藉料 一〇〇〇万円
一家の支柱を失つた原告両名の精神的苦痛は大きいので、これを慰藉するには、各五〇〇万円が相当である。
5 弁護士費用 一二〇万円
四 損害の填補
原告らは、本件事故による損害につき、自賠責保険から金一〇〇九万一七四〇円の支払を受けたので、これを逸失利益に(原告明広につきその三分の二、原告やえ子につきその三分の一宛)各充当した。
五 原告らの各損害額
1 原告明広の損害額
逸失利益 七四六万八七一八円
算式 (21,294,818-10,091,740)×2/3≒7,468,718
慰藉料 五〇〇万円
弁護士費用 八〇万円
算式 1,200,000×2/3=800,000
合計 一三二六万八七一八円
2 原告やえ子の損害額
治療費 九万〇九二〇円
葬儀費 五一万七〇四五円
逸失利益 三七三万四三五九円
算式 (21,294,818-10,091,740)×1/3≒3,734,359
慰藉料 五〇〇万円
弁護士費用 四〇万円
算式 1,200,000×1/3=400,000
合計 九七四万二三二四円
六 本訴請求
よつて、請求の趣旨記載のとおりの判決(遅延損害金は、本件不法行為の日の翌日から民法所定年五分の割合による。但し、弁護士費用に対する分は、請求しない。)を求める。
第三請求原因に対する答弁(被告両名)
請求原因第一項の事実は全部認める。
同第二項の1の事実は認め、2の事実は否認する。
同第三項の1ないし3(1)の数額は不知。3(2)の事実は認める。4、5の数額は否認。なお、1の治療費は自賠責保険により処理済みであり、3(1)中の亡三次の生活費は五〇パーセントとすべきである。
同第四項の事実は充当先が逸失利益であることをも含め認める。
第四被告らの主張
本件事故の態様の詳細は次のとおりである。すなわち、被告坂井は、右折に際し、対向車線の通行をうかがつて一時停車していたところ、対向車線第三通行帯、同第二通行帯の車両が折からの交通渋滞に伴い、被告坂井が右折するに足りるだけの余裕をおいて停車してくれ、またその後続車も引続き停車してくれたので、右折のため発進し、時速約二〇キロメートル程度で徐行しつつ、第二通行帯の対向車両前付近でブレーキペダルに足をのせ、そのまま徐行しながら第一通行帯の方を見たが、車両の姿を認めなかつたので、更に前記速度で進行していた時、突如被害車が、第一通行帯中央付近で加害車の前部左側ドア中央付近に、時速約七五キロメートル(制限速度は時速四〇キロ)の猛スピードで、前方不注視のまゝ(この事は、本件事故前に被害車のブレーキが全く作動していなかつたことより明らか。)激突したものである。以上の次第であるから、本件事故に関し被告坂井に過失は全くなく、仮にあつたとしても、亡三次の過失の方が極めて大きいので、大幅な過失相殺がなされるべきである。
第五被告らの主張に対する原告らの答弁
争う。
第六証拠〔略〕
理由
第一事故の発生
請求原因第一項の事実はすべて当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第二ないし第一一号証、同第一五号証、同第一六号証(但し、後記採用しない部分を除く。)および被告坂井本人尋問の結果(但し、後記措置しない部分を除く。)を総合すると、本件事故の具体的態様等は、以下のとおりであると認められる。すなわち、本件交差点は、ほゞ南北に走る車道部分の幅員約一六・二メートル(その両外側に歩道が付帯している。)の国道一六三号線(アスフアルト舗装された平坦な道路で、センターラインによりほゞ東西に二分され、東西各部分の幅員はいずれも約八・一メートルで、更に右東西各部分はいずれも三つの通行帯に細分されている。右東部分における三つの通行帯の各幅員は、センターライン寄りの通行帯=以下、単に第三通行帯という。=が約三・一メートル、真中の通行帯=以下、単に第二通行帯という。=が約三・二メートル、歩道寄りの通行帯=以下、単に第一通行帯という。=が約一・八メートルである。)に対し、ほゞ直角にほゞ東から西に向つて幅員約五メートルの道路がT字型に交差している所であつて、信号機はなく、その見通しは、右国道における南から北への方向、右幅員約五メートルの道路における西から東への方向とも、良好であり、制限速度は時速四〇キロである。なお本件事故当時の国道一六三号線上の交通量は、一分間に車両八〇台の割合で、朝のラツシユ時にあたつていた。さて、被告坂井は、国道一六三号線上を北進中、前記幅員約五メートルの道路を西から東に向つて右折しようとして前記センターライン上付近のかつ本件交差点の手前約一〇メートル位の所で一時停車し、前記東部分を北より南に向つて直進する対向車を見まもつていたところ、第三通行帯と第二通行帯の直進対向車が被告坂井が右折できる余裕分をあけて停車してくれ、その後続車も引続き連なるような状態で停車してくれたので、発進して右折を開始し、徐行しつつ、第二通行帯の中央付近で、第一通行帯の方も瞥見したが車両が目に入らなかつたので、その後は右折方向を見たまゝ加速し、時速約二〇キロで進行中、第一通行帯に入りかけた付近で、加害車の左前ドア部分と被害車前部とが衝突するに至つたものである。なお、衝突直前の被害車の時速は七〇ないし七五キロであつた。また、被告坂井が右折当時、前記第三通行帯と第二通行帯には、前記のとおり停止車両が渋滞していたので、加害車より第一通行帯に対する見通しは、困難な状況にあつた。
右認定に反する乙第一六号証の一部は、前掲証拠と対比すると採用し難く、また右認定に反する被告坂井本人尋問の結果の一部も、前掲証拠と対比し、措信しない。他に右認定を左右するに足る証拠はない。
第二責任原因
1 被告品田
被告品田が加害車を保有し、自己のために運行の用に供していたことは当事者間に争いがない。そうすると、被告品田には、自賠法三条により本件事故に基く原告らの損害を賠償する責任がある。
2 被告坂井
前記第一で認定した事実によれば、被告坂井としては、右折の際、第三、第二各通行帯の停止車両の渋滞により第一通行帯に対する見通しが困難であつたうえ、朝のラツシユ時のこととて第一通行帯にも車両が通行して来ることを十分に予見できたのであるから、第一通行帯を十分に見通せる所で再度一時停車するなどしたうえ、左方を十分に注視し、左方の安全を十分に確認して事故の発生を未然に防止すべき注意義務があつたのに、これを怠り、第二通行帯の中央付近で第一通行帯の方を瞥見したのみで第一通行帯に通行車両はないものと軽信し、その後は右折方向を見たまゝ漫然時速約二〇キロメートルで進行した過失により、本件事故を発生させたことが明らかである。そうすると、被告坂井には、民法七〇九条により本件事故に基く原告らの損害を賠償する責任がある。
第三損害
1 治療費 九万〇九二〇円
原本の存在およびその成立につき争いのない甲第四号証によると、原告やえ子が、亡三次の受傷から死亡に至るまでの治療費九万〇九二〇円を野川病院(守口市所在に支払つたことを認めることができる。(なお、右治療費が自賠責保険より処理済みである旨の証拠は見当らない。)
2 葬儀費
原告やえ子本人尋問の結果によると、亡三次の葬儀が施行され、原告やえ子がその費用として六五万円以上を支払つたことを認めることができるところ、右金員中四五万円をもつて、相当額と考える。
3 逸失利益および原告らの相続
(1) 原本の存在およびその成立につき争いのない甲第八号証によると、亡三次の本件事故直前の八九日間(昭和五〇年二月二一日から同年五月二〇日まで)の収入は、三二万八〇六〇円であることを認めることができる。
また、成立に争いのない甲第一号証によると、亡三次の本件事故当時の年齢は満二四歳と認められるところ、満六七歳までの四三年間をもつて就労可能年数とすべきであるから、ホフマン係数は、二二・六一〇五(小数点第五位以下切捨)となる。
なお生活費の控除割合は、原告やえ子本人尋問の結果によれば亡三次が生前世帯主であつたことを認めることができるので、その収入の三〇パーセントとするのを相当と考える。
したがつて、亡三次の逸失利益は、次の算式により、二一二九万四三四七円(円未満切捨、以下同様)となる。
算式 328,060×365/89×0.7×22.6105=21,294,347
(2) 請求原因第三項3(2)の事実は当事者間に争いがない。そうすると、原告らは法定相続分に従つて、右逸失利益の賠償請求権を原告明広が三分の二、原告やえ子が三分の一宛各相続したことになる。
原告明広 一四一九万六二三一円
算式 21,294,347×2/3≒14,196,231
原告やえ子 七〇九万八一一五円
算式 21,294,347×1/3≒7,098,115
4 慰藉料
前記認定の、本件事故の態様、亡三次が世帯主であつたこと、亡三次と原告らとの身分関係、亡三次の年齢その他諸般の事情を総合考慮すると、原告らの本件事故による慰藉料額を各五〇〇万円とするのが相当である。
5 原告らの各損害額(但し、弁護士費用は除外し、後に付加する。)
原告明広 一九一九万六二三一円
原告やえ子 一二六三万九〇三五円
第四過失相殺
前記第一で認定した事実によれば、亡三次にもスピードの出し過ぎと前方不注視の過失が存したことは明らかであるから、被告坂井の前記過失の態様その他諸般の事情も考慮のうえ、原告らの各損害の三分の二を減ずるのを相当と考える。そうすると、次のとおりとなる。
原告明広 六三九万八七四三円
算式 19,196,231×1/3≒6,398,743
原告やえ子 四二一万三〇一一円
算式 12,639,035×1/3≒4,213,011
第五損害の填補
請求原因第四項の事実は、原告らの自認するところであるから、原告らの過失相殺後の金額から右填補分を差引くと、残損害額は次のとおりとなる。
原告明広 零
算式 6,398,743-(10,091,740×2/3≒6,727,826)=-329,083
原告やえ子 八四万九〇九八円
算式 4,213,011-(10,091,740×1/3≒3,363,913)=849,098
第六弁護士費用
本件事案の内容、審理経過、認容額等に照らすと、原告やえ子が被告らに対して、本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は、金一〇万円とするのが相当である。
第七結論
よつて、被告らは各自、原告やえ子に対し、九四万九〇九八円および弁護士費用を除く内金八四万九〇九八円に対する本件不法行為の日の翌日である昭和五〇年五月二七日から支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、原告やえ子の本訴請求は右の限度で理由があるから正当として認容し、原告やえ子のその余の請求および原告明広の本訴請求はいずれも理由がないから失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 柳澤昇)